おはようございます。朝塾です。
火曜日にお届けしている高校古典シリーズ。先週の折句に続いて、今朝は「沓冠(くつかんむり)」についてお話しします。
はじめに、復習です。折句とは、物の名前を各句の頭に1文字ずつ詠み込む技法の事で、今でいう「あいうえお作文」です。
上のイラストにある、在原業平が読んだとされる句。
唐衣(からころも) 着つつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞ思ふ
には、
かきつばた
が隠れていました。
今朝お話しする、「沓冠」は、折句の往復バージョンです。あまりのマニアックさゆえに大学入試でもほとんど見かけませんが、とてもおしゃれな言葉遊びです。
有名なのはこちら。吉田兼好(代表作は徒然草)が、頓阿(とんあ。人名。兼好の出家仲間である僧侶)に送った和歌。
よも涼し ねざめのかりほ たまくらも まそでもあきに へだてなきかぜ
折句の方法で、各句の頭の1字を読むと、「よねたまへ」=米給え=米をくれ。です。さらに、各句の足を第五句から一句へさかのぼって読むと、
「ぜにもほし」=銭も欲し=金もくれ
が浮かび上がってきます。
兼好は友達に、お米とお金を頂戴なと言っているのですが、あからさまに言うと無風流なので、和歌にしたためたというわけです。
さらに、秀逸なのが、頓阿からの返事。
よるも憂し(うし) ねたくわが背こ はては来ず なほざりにだに しばし訪ひませ(とひませ)
折句では、「よねはなし」=米はなし=米はないよ。です。
そして、各句の足を第五句から一句へさかのぼって読むと、
「せにすこし」=銭少し=お金ならちょっと貸せるよ
です。
沓冠に沓冠で返す、秀逸さ。さらに、お互いに理解してくれるだろうという信頼の証。兼好と頓阿は、どちらも鎌倉時代の和歌四天王です。天才だと思います。
ちなみに、沓冠は、沓(くつ。足元)と冠(かんむり。あたま)なので、句の初めと終わりを表しています。
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